心臓には、図1のように4つの部屋(右心房・右心室、左心房・左心室)に分かれています。
全身に酸素を供給した血液が、上・下大静脈を経て右心房→右心室→肺動脈→肺の順にながれ、肺で酸素化されます。この酸素化された血液が、肺静脈を経て、左心房→左心室→大動脈→全身へ流れます。
心房と心室の間、心室と動脈の間に、それぞれ弁が存在します。この弁があることにより、血液が逆流することなく一方通行に血液が流れるような構造になっています。
左心室と大動脈の間にある弁を大動脈弁と呼びます。大動脈弁は、薄くしなやかに動く3枚の弁尖(写真1)で構成されています。この大動脈弁が、加齢による変性やリウマチ熱、先天異常(二尖弁など)により硬くなり、動きが低下した病態(写真2)を「大動脈弁狭窄症」と言います。
心臓の出口が狭くなっている状態であり、心臓(特に左心室)に強い負荷がかかっている状態です。多くは無症状で経過しますが、病状が進むと狭心痛(動いたときに胸が痛む)や失神発作(意識を失う)、心不全(息が切れる、手足がむくむ)などの症状がでることがあります。これらの症状が出始めると生命予後は急激に悪化すると言われています(図2)。
主に経胸壁心エコー検査(図3)で診断を行います。この検査で大動脈弁の形態や可動性、弁口面積などを測定し、表1のように重症度を評価します。
さらに詳細な情報が必要な時には経食道心エコー検査(図4)を実施します。
軽症 AS | 中等症 AS | 重症 AS | 超重症 AS | |
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大動脈弁最大血流速度(m/秒) | 2.6~2.9 | 3.0~3.9 | ≧4.0 | ≧5.0 |
平均圧較差(mmHg) | <20 | 20~39 | ≧40 | ≧60 |
大動脈弁 弁口面積(cm2) | >1.5 | 1.0~1.5 | <1.0 | <0.6 |
表1 大動脈弁狭窄症(AS)の重症度評価
重症の大動脈弁狭窄と診断されたら手術を検討します。
特に胸痛や意識消失、息切れなどの症状がある患者さんは早期の治療介入が望ましいと言われています。
◆手術
① 外科的大動脈弁置換術(SAVR)
② 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI/TAVR)
◆経皮的大動脈弁バルーン拡張術(BAV)
高齢であったり、手術リスクが高く外科手術の適応とならない患者さんに対し、バルーン(医療用の風船)を用いて、大動脈弁を拡張する方法です。一時的に弁口面積が増加し、症状が改善する場合が多いものの、再狭窄が起こる可能性が高く予後は改善しないと言われています。
◆保存的加療
① 病状が軽度であり治療の適応とならない場合
→ 病状の進行がないか確認するために、半年~1年毎に心エコー検査を実施します。
② 手術による危険性が高すぎるために治療適応とならない場合
③ 併存疾患や全身状態のために、手術によって利益が得られる可能性が低い場合
→ 利尿剤などの内服薬を調整し、症状の改善に努めます。
【SAVR】の適応基準
【TAVI】の適応基準
SAVRに比べるとTAVI治療後の方が回復が早く、より早期にリハビリを進めることができることから入院期間が短縮されているのが特徴です。
SAVR | TAVI | |
手術時間 | 3~4時間 | 1時間前後 |
出血量 | 200ml~300ml | 100ml以下 |
人工呼吸器離脱 | 術後数時間~術翌日 | 術直後 |
食事開始 | 術後1~3日 | 術翌日 |
歩行開始 | 術後2~4日 | 術翌日 |
退院 | 術後2~3週間 | 術後1週間 |
患者さんの年齢や身体的特徴、他の病気の有無など様々な要素を考慮し、患者さんとご家族の価値観や希望を伺った上で、ハートチームで協議し最終決定いたします。ハートチームは、多くの職種で構成されており、各々の立場から患者さんにとって最適な医療を提案し、皆で協議しながら治療に取り組んでいます。
TAVI治療を受ける患者さんの多くは高齢で体力的な問題があったり、他の病気を抱えていたりする方がほとんどです。ですが、総合病院である当病院は、TAVI治療に直接かかわる診療科以外にもさまざまな診療科のスタッフが在籍しており、万が一の際にも迅速な対応が可能です。
2.診断及び治療方法について
3.当病院の特徴