低侵襲心臓血管治療センター

心臓の病気で受診される方へ

2.診断及び治療方法について

3.当病院の特徴

 

病気について


心臓の構造

 心臓には、図1のように4つの部屋(右心房・右心室、左心房・左心室)に分かれています。
 全身に酸素を供給した血液が、上・下大静脈を経て右心房→右心室→肺動脈→肺の順にながれ、肺で酸素化されます。この酸素化された血液が、肺静脈を経て、左心房→左心室→大動脈→全身へ流れます。
 心房と心室の間、心室と動脈の間に、それぞれ弁が存在します。この弁があることにより、血液が逆流することなく一方通行に血液が流れるような構造になっています。


 

大動脈弁狭窄症

 左心室と大動脈の間にある弁を大動脈弁と呼びます。大動脈弁は、薄くしなやかに動く3枚の弁尖(写真1)で構成されています。この大動脈弁が、加齢による変性やリウマチ熱、先天異常(二尖弁など)により硬くなり、動きが低下した病態(写真2)を「大動脈弁狭窄症」と言います。
 心臓の出口が狭くなっている状態であり、心臓(特に左心室)に強い負荷がかかっている状態です。多くは無症状で経過しますが、病状が進むと狭心痛(動いたときに胸が痛む)や失神発作(意識を失う)、心不全(息が切れる、手足がむくむ)などの症状がでることがあります。これらの症状が出始めると生命予後は急激に悪化すると言われています(図2)。



※1 Jhon Ross,Eugene Braunwald. Aortic Stenosis. Supplement V to Circulation, Vols.XXXVII and XXXVIII, July 1968:V61-V67.

※2 Lester SJ, Heilbron B, Dodek A, Gin K, Jue J. The Natural History And Rate Of Progression Of Aortic Stenosis. CHEST. 1998;113(4):1109-1114.
※3 Otto CM. Timing of aortic valve surgery. Heart. 2000;84:211-21.


正常の大動脈弁の動き


大動脈弁狭窄症の弁の動き


 

診断及び治療方法について


診断および重症度の評価

 主に経胸壁心エコー検査(図3)で診断を行います。この検査で大動脈弁の形態や可動性、弁口面積などを測定し、表1のように重症度を評価します。
 さらに詳細な情報が必要な時には経食道心エコー検査(図4)を実施します。

  • 図3 経胸壁心エコー検査

    図3 経胸壁心エコー検査

  • 図4 経食道心エコー検査

    図4 経食道心エコー検査


 軽症 AS中等症 AS重症 AS超重症 AS
大動脈弁最大血流速度(m/秒)2.6~2.93.0~3.9≧4.0≧5.0
平均圧較差(mmHg)<2020~39 ≧40≧60

大動脈弁 弁口面積(cm2)

>1.51.0~1.5 <1.0<0.6

表1 大動脈弁狭窄症(AS)の重症度評価



重症の大動脈弁狭窄と診断されたら手術を検討します。
特に胸痛や意識消失、息切れなどの症状がある患者さんは早期の治療介入が望ましいと言われています。


 

治療方法

◆手術
① 外科的大動脈弁置換術(SAVR)
経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI/TAVR)

 

◆経皮的大動脈弁バルーン拡張術(BAV)
高齢であったり、手術リスクが高く外科手術の適応とならない患者さんに対し、バルーン(医療用の風船)を用いて、大動脈弁を拡張する方法です。一時的に弁口面積が増加し、症状が改善する場合が多いものの、再狭窄が起こる可能性が高く予後は改善しないと言われています。

 

◆保存的加療
① 病状が軽度であり治療の適応とならない場合
→ 病状の進行がないか確認するために、半年~1年毎に心エコー検査を実施します。
② 手術による危険性が高すぎるために治療適応とならない場合
③ 併存疾患や全身状態のために、手術によって利益が得られる可能性が低い場合
→ 利尿剤などの内服薬を調整し、症状の改善に努めます。


当院の治療選択基準

【SAVR】の適応基準

  • 75歳未満
    • ※ただし、75歳以上でも解剖学的理由等でTAVRが困難な症例は、全身状態を考慮しSAVRを考慮する
  • 他の心臓大血管疾患に対する手術が必要
  • TAVIに適さない解剖学的理由がある
    • アクセスが不良(高度石灰化、蛇行、狭窄・閉塞など)
    • 冠動脈閉塞リスクが高い(低起始、弁尖が長い、バルサルバ洞が小さい)
    • 弁輪破裂のリスクが高い(左室流出路、弁輪部の高度石灰化など)
    • 左室内血栓がある


【TAVI】の適応基準

  • 75歳以上
  • フレイル(虚弱)
  • 全身状態が不良
  • 開胸手術が困難な心臓以外の疾患や病態が存在する
    肝硬変、呼吸器疾患(重度のCOPDなど)、出血傾向
  • 開胸手術が困難である(開胸手術の既往(胸部への放射線治療の既往、著しい胸郭変形、大動脈遮断が困難(上行大動脈の高度石灰化))
  • ※TAVIができない場合もあります

当院における一般的な治療経過

 SAVRに比べるとTAVI治療後の方が回復が早く、より早期にリハビリを進めることができることから入院期間が短縮されているのが特徴です。

 SAVRTAVI
手術時間3~4時間1時間前後
出血量200ml~300ml100ml以下
人工呼吸器離脱術後数時間~術翌日術直後
食事開始術後1~3日術翌日
歩行開始術後2~4日術翌日
退院術後2~3週間術後1週間

最終的な治療方法の選択

 患者さんの年齢や身体的特徴、他の病気の有無など様々な要素を考慮し、患者さんとご家族の価値観や希望を伺った上で、ハートチームで協議し最終決定いたします。ハートチームは、多くの職種で構成されており、各々の立場から患者さんにとって最適な医療を提案し、皆で協議しながら治療に取り組んでいます。


 

当病院の特徴


TAVIの実施状況

  • 当病院では,2021年11月にTAVI実施施設に認定されました。2021年12月に治療を開始し、2023年4月末までに経大腿動脈アプローチのTAVIを49名、経心尖部アプローチのTAVIを3名、計52名の患者さんに手術を実施いたしました。
  • 手術を受けた患者さんの平均年齢は、約85歳とかなり高齢となっています。
  • 大腿骨頸部/転子部骨折などの整形外科疾患や消化器あるいは泌尿器の悪性腫瘍の術前検査で大動脈弁狭窄症と診断された患者さんや肝硬変・慢性肺疾患などの併存症があり、開胸手術のリスクの高い患者さんがほとんどでした。
  • 経大腿動脈アプローチのTAVIでは、30日死亡は0%、またこの治療で発症リスクが高いとされている脳梗塞や新規ペースメーカー植え込みなどの発生も0%でした。
  • 術前の状態が安定している患者さんは、術後約1週間程度で退院されています。
  • 日常生活活動能力が低下しており、自宅への退院が困難な患者さんに対しては、近隣病院と連携をとり、継続したリハビリの実施が可能な環境で御加療いただけるよう取り組んでいます。

伊勢崎市民病院のTAVI治療の特徴

TAVI治療を受ける患者さんの多くは高齢で体力的な問題があったり、他の病気を抱えていたりする方がほとんどです。ですが、総合病院である当病院は、TAVI治療に直接かかわる診療科以外にもさまざまな診療科のスタッフが在籍しており、万が一の際にも迅速な対応が可能です。


TAVI治療 担当医師

  • 心臓血管外科 小此木 修一

    心臓血管外科 小此木 修一

  • 循環器内科 渡邉 真

    循環器内科 渡邉 真


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